”青痣が残る目の堰が切れた。家の裏、うち捨てられたオイル・タンク、一面の雑草、木の幹。人々が暮らし、去った場所。イーストは涙が涸れるまですすり泣いた。しかし、だからといって、実際には何も変わらないのだ。どんな言葉を聞いても、どんな光景を見ても、どんな思いを抱いても。筋肉のいたずらだ。涙腺が緩んだだけだ。”
Bill Beverly「東の果て、夜へ」早川書房
指輪物語の合間にKindleで買った本を消化しているのだが、ドナルドキーン先生の本ばかり読み進めている。三島由紀夫と深く親交のあったことは知識として知っていたが、自身の言葉で語られる三島像はやはり面白く、興味深い。私は昔から三島の書く文章に苦手意識があって、「金閣寺」が良かったこと以外の記憶があまりない。没後50年ということで各所の特集を色々と読んだりもしたが、結局「まあ金閣寺は良かったよね」以上の感想を持てなかった。しかしここへきてキーン氏が「三島さん」と親しみを込めて回想するのに触れて、また少し読んでみようかという気になっている。