親の家を出て最初に住んだ部屋は最上階に大家が住んでいる物件だった。自分で住んでいるくらいだから悪くはないところだろうというのがこちらの見立てだった。引っ越して最初の日、新茶を持って挨拶に行った。大家は私に「◯◯大学の学生か」と訊ねた。曰く、某教員と知り合いなのだと言う。その通り◯◯大の学生であった私は、果たしてその人の名を知っていた。しかし別にそれだけで、あとは二言、三言会話を交わして終わった。
大家に面倒をかけることはあまりなかったと思っている。一度台所の水道に重いものを落として派手に壊したことはあったが、それ以外はごく静かに暮らしていたと思う。思い出してみると入居の際も「学生だからといって騒がしくなければ良い」ということだけは念押しされたが、結局のところ、人を招くことも殆どなかった。
大家は小柄な高齢男性だった。七十だか八十だかよくわからないがまあその辺りだろうと思っていた。その年代にしては割合元気よく見えていたが、ある時から経鼻チューブをしてエレベーターを降りてくるところを見かけるようになった。「どこか悪いのだろうか」と思ったけれども、それを直接訊ねることもできなかった。
やがてそんな姿も見かけなくなり、ある日町内の看板に訃報が貼り出されているのを見て亡くなったことを知った。年齢は七十でも八十でもなく、九十を優に過ぎていたことも、同時に知ったのだった。
物件はその後大家の子どもが引き継ぐことになった。私はそれからすぐに引越しをしたので、あの建物が今どうなっているのかを知らない。
些事ながらこの思い出を私は忘れたことがないのだが、今になって無性に書き表してみたくなったのは、こういう日記をつけ始めたからかもしれない。私があの物件に入居し、また大家の訃報を見たのがちょうど今時分の時期だった。春が近づく夜の匂いをかぐたび、このことを思い出すのである。
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モバイルSuicaのクレジット連携をやめた。理由はカードの請求額を見るたびに驚いてしまうからである。一回1万円を月に2回チャージしたらそれだけで2万円も加算されてくるので心臓に悪い。ATMから現金チャージしてその場で精算される方が心の健康には良い(当社比)。
気候が良くなって規制が緩和されて学校へ行く人々、在宅勤務が解除されてしまったのであろう人々、外出を楽しんでいる人々と一緒くたになって毎日電車に乗っている。つらい。多分お互いにそれぞれみんな、つらい。でも私は私の痛みしかわからないから、この3年間在宅と無縁でひと気の少ない東京をひたすら徘徊した(ある種快適な)体験を経て今とてもギャップに苦しんでいます。と言う顔をして電車に乗っている。絶対に立ちたくないから始発駅までわざわざ戻って乗っているんだけど、さすがに我ながら何やっているんだかわからない。もはやなにも。
チョコレートである。フェアトレードマークというものについては、それが本来の目的を厳正に果たしているかという点において、あまり信用していない。かといって自分が直接的に何かするのも難しいので、そこは信頼できる企業を見つけ、消費者として選択していきたい。Tony’s Chocolonleyが気になっていて、日本でも入手しやすくなってくれたらいいなあと思っているところ。
昨日は切り干し大根の煮物、キャベツの和え物、ピーマンのきんぴらとつくねを作り、鶏肉を蒸した。まだ使わない豚肉には醤油をしておく。今日は余っていた鶏肉と豚肉を合わせて挽き、タコミートを作った。昨日の買い物はこれで大体手を入れたことになる。魚の干物は食べたい日に焼けば良いし、まだある野菜はぼちぼち副菜に使っていこう。
このところ料理をそれなりにしている。しかし料理が捗る時はだいたい、書いたり、書くことについて考えたりすることから遠ざかっている時なのだ、ときゅうりを切りながらふと思う。私にとって料理が楽しいというのは一つの状態であり、停滞でもある。そしてこの停滞に対して進展があるとすれば、書くことに没頭してそれ以外の全てを放り出している状態に他ならない。自分でエンジンをかけていかなければとは思うのだけれど。
印刷物を作るとき、データ入稿後はいつも不備連絡が来るのではと落ち着かない。無事可の連絡をもらったので安堵して発送を待つ。
先月三島由紀夫vs東大全共闘を見た関係で佐々淳行「東大落城」を読んだ。警察側の立場での奮闘がよく描かれていて面白かった。これまでなんとなくのイメージで学生、パワーあったんだなとぼんやりした感想を持っていたのだが、警察は警察で凄まじいというか、昭和という時代はとんでもなかったんだなと、ぼんやりの範囲が広がるに至る。
学生たちが道路のコンクリートを剥がして武器にしてしまうので、機動隊で先回りして剥がしたところ道路局が何事かと飛んできたというエピソード、良い。
Twitterを見なくなり、ネットニュースを見なくなった結果、美術館やNASAの記事を見る時間が増えた。ナショジオの定期購読を随分前にやめたのだが、ニュースレターだけは受け取っている。目を通すとやはり面白い。購読したいが紙の本は嵩張るのが難点だ。英語版のKindleがあるといいのだが。
速報性からは離れるがナショジオキッズをなんとなく読んでみる。サイトの更新頻度がわからないが、現在のトップにはチリについての記事がある。簡潔な内容だが無知の者には結構面白い。首都近郊には全人口の四割が居住しているそうで、郊外の子供たちは通学に時間がかかるため朝が早いとある。日本でも中学高校が遠すぎることはままあるが、チリも同じような感じなのだろうか。小学校が遠いのだとしたら相当大変だ。
またチリの先住民族マプチェ、wikiによればその名前の由来は彼らの言語で大地(Mapu)に生きる人々(Che)だという。とてもいい響きだ。チェ、という言葉は隣国アルゼンチンの雄ゲバラの愛称を思い出すが、あちらはスペイン語か。入植者たち、彼らと争った民族。様々の血と動乱の歴史を持つ南米の地に想いを馳せる。